Code for History

"Code for History"はIT技術を歴史学上の問題の解決に使うコミュニティです。強調したいのは、我々にとってIT技術は「手段」であって「目的」ではありません。「目的」は歴史学上の問題を解決する事であって、必要であればITでない手段も活用します。常に最優先なのは、問題を解決することです。

世界の先端地理技術開発者の間では普通にH3やS2が使われていた

先日、私と弊社の開発者1人と、弊社ではないのだけど、関連会社で世界有数の位置情報技術会社の研究者1人とでSlackしてたのだけど。 ちなみにその研究者は、前職も世界有数の位置情報会社*1だった人だ。

研:「うちの会社の位置情報データベースシステムは、インデクシングにH3タイルシステムを使ってんで」

へ?H3って、あのUberが開発した、全球を網羅できる六角タイルシステム?

eng.uber.com

qiita.com

マジか...2年ほど前に紹介された時、むちゃくちゃ面白いけど、タイルの並ぶ方向が東西南北に関係なくなるなど直観的に理解しにくく、使いどころが難しいなあと思いつつその後利用法を特に考えてこなかった仕組みだ...。

開:「クールやな。なんで他のインデクシングじゃなくてH3使ってんだ?」

研:「ようは知らん。でも、H3にはむちゃくちゃいろいろ利点があるからな」

開:「せやな」

研:「いろいろビジュアライズする際にも、H3の世界のどこでもほぼ同じタイルサイズというのが使い勝手ええんやろ」

開:「わかるわかる、おもろいな」

研:「せやけど、個人的にはS2タイルの方が好きやねん」

S2タイル?なんか聞いたような記憶はあるけど忘却の彼方や。ググってみるとこういうのが引きあたる。

s2geometry.io

これ?

研:「それやで」

うわ、これまた地上での表現がどうなるのかわかりづらいシステムやな。読んでみると、H3が全球をサッカーボールに投影するのと同様に、S2は正六面体に投影した結果をタイル分割しているっぽい。必然的にこれもタイル分割の境界は東西南北に関係なくなるだろうし、全くビジュアル的に想像つかんわ...。

研:「地上にエリア描いたら、それを内包するS2タイルで埋めてくれるサイトがあるから、それ使ってイメージしてみたらええで」

s2.sidewalklabs.com

研:「あと、S2をビジュアルグラフこみで説明してるこのブログも読んでみたらええわ」

blog.christianperone.com

すごいなあ...極東で頭が固まったおっさんが、イメージ想像しにくいからと平面地図ベースでのタイルシステムまでで思考停止している間に、世界では普通に全球タイルシステムに移行していたのか...。 旧世代には直観的に想像しにくいタイルでも、新世代の人たちは華麗に使いこなしていくのだなあ...。

H3なんかは、タイルの大きさの全世界ほぼ均一性なんかの利点もあるので、必ずしも全球表現できるシステムであることが選ばれた理由ではないとは思うけど、でもこの話題に上った2つが、全球を表現できない既存のWebメルカトルタイルではなく、全球タイルシステムだというのは象徴的に感じる。 Webメルカトルは画期的だ、この地球上で人の居住してない地域を無視すれば、ほぼ全域を共通のルールで処理できるシステムだ、という有用性はいささかも色褪せないのだけど、一方で人間の営為は人の住んでいる地域だけでなく、極域や宇宙など、Webメルカトルでは全く扱えない領域にまで足を延ばそうとしている。 そんなところを扱えないタイルシステムを思考停止して崇め奉っている間に、世界最先端ではちゃんと全球を扱えるタイルシステムが、作り上げられていただけでなくちゃんと利用されていたわけですね...。

私なんかも極域まで扱えるタイルシステムを、極域はUPS図法で地図描画してタイル化して、Maplatのあらゆる地図の縮尺と方角を局地で合わせこむ技術を使って緯度85度付近でWebメルカトル地図と極域地図をシームレスに切り替えて、全球をタイル表現するというのを考えてはいたのだけれど、しょせん2次元の発想の域を出ない代物、立体を立体として扱えるタイルシステムが確立しててましてや既に利活用されてるならば、もう開発する意味はなさそうやね...。

自分の時代遅れ度を思い知らされた出来事でした。

*1:これは私にとっても元弊社だ。私はただの技術営業だったので、世界有数の技術力からは程遠かったが。

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