Code for History

"Code for History"はIT技術を歴史学上の問題の解決に使うコミュニティです。強調したいのは、我々にとってIT技術は「手段」であって「目的」ではありません。「目的」は歴史学上の問題を解決する事であって、必要であればITでない手段も活用します。常に最優先なのは、問題を解決することです。

「大字史」活動的なもの、「ウィキペディアタウン」的なものは地域史を守る車輪の両輪であることについて

かつてよく一緒に活動していた、ウィキペディアタウンの活動をしている人たちの集まるclubhouseをたまに垂れ流して聞いています。

note.com

ウィキペディアタウンとは何ぞや、という点についてはこちらを見てみてください。

www.sankei.com

一方で私は、今は群馬県立女子大学の簗瀬先生が提唱される「大字史」掘り起しの活動や、それに近い活動をされている他地域の活動などに関わっているか近いところにいます。
群馬県玉村町の「大字角淵誌」の活動:

www.jomo-news.co.jp

奈良京終の地域歴史誌「奈良町の南玄関」執筆活動:

mainichi.jp

これ、どちらも地域の人たちを巻き込んだ街の歴史を掘り起こしての記録活動で、似てるように見えて違う活動なんですよね。
大字史的活動は、よくあるビジネスの「0から1を作る」「1を10にする」「10を維持し続ける」活動の喩えでいうならば、いわば0から1を作る活動。
0といっても当然元になる地域一次史料、区有文化財、現地に暮らす人たちの口伝、他いろいろあるわけですが、基本的にはまだ図書館に所蔵されていない、未知の情報を紐解いて集約し、『図書館に新たな知識として収めるものを作る』活動だと私は捉えています。

それに対し、ウィキペディアタウンの方は、「1を10にする活動」の方だと思います。
もう既に図書館に情報としてあるんだけど、埋もれてしまって広く知られていない情報。
それを掘り起こして、より多くの人に気付かれやすい場所に再構築する(1を10にする)活動。
それはとても大切な活動ですが、しかし典拠がなければ書いてはいけないWikipediaというメディアの性質からも、それは絶対に「0から1を生む」ことはないと思います(それが問題だというのではなく)。
0を10にするには、必ずまず大字史のような活動で0から1を掘り起し、成果を出版したり図書館などに収めてから、それをウィキペディアタウンのような活動が再発見し、1から10にしなければなりません。
つまり、地域史掘り起しの視点からは、両者は車輪の両輪なのです。

両者の活動が同じ場所で起こって、一気通貫に機能すれば、ものすごく地域研究とその周知活用が進むと思うのですが、残念ながら今のところそんな感じの活動は起こる気配はありません。
どちらも地域の歴史掘り起しに興味のある地域住民のマンパワーを借りて行う活動になっていますが、おそらくどちらの活動も力を貸していただける地域住民の層や、活動にあたっての意識にそれほど大きな違いはなく、先にアプローチしたのが「大字史的活動グループ」か、「ウィキペディア的活動グループ」かの違いだけで、多分参加している方々は「私の活動は大字史的だ」「我々はウィキペディアタウンだ」という意識はなく、ともに「地域史の掘り起しに携わってる」と思っていると思います。
が、ここで、両者の活動の間に交流がないことに大きな問題が生じるのではないか、ということを危惧しています。
両者の活動に参加する人々の層に大きな差がないとすると、別々の活動として地域にアプローチすると、先にアプローチした活動の方に人的リソースが集中してしまい、もう一方の活動が入り込みにくくなるのではないかという問題です。
それぞれが別の活動として、「大字史活動」「ウィキペディアタウン活動」として認知された上で、「うちは片方しかやってないんだよね、これからは両方やりますか!」と受け入れられればいいんですが、どちらも「地域史掘り下げ活動」の別方法論として認知されてしまうと、だいたい人は自分たちの活動の方法論にすぐ凝り固まりがちですから、「うちにはうちのやり方があります、ノーサンキュー」ということになってしまわないかということを危惧しています。

その結果、ウィキペディアタウンが流行っているところではこれまでに明らかになっていた歴史については全部掘り起こされてみんなに知られるようになったけど、新しい発見を生むような未知未調査の史料については調査が進まないまま史料の風化紛失と共に明らかにできたはずの歴史が消え去っていく...、
大字史が流行っているところでは地域の区有文書などまでみんな調査されて新たな発見、知見が溜まっていくんだけど、それらは図書館の中にしまわれるだけで、世の中に広く知られるようになるには同じ地域で50年後にウィキペディアタウンが流行りだして以降、その頃には大字史に取り組んだ人たちももう存命でなく...、
というようなことが起こってしまいそうな気がしてなりません。
両者を進めようとしている人たちが手を取り合って、情報交換して、それぞれが相互補完して0から10まで一気に駆け抜けるような活動が生まれればいいのに、と思うのは私だけでしょうか。

だったら、それに気付いたんならお前がその活動をすればいいじゃん、と私に求めるのは酷なので、求めないでくれると嬉しい...。
まず、私はCode for Historyという事実上たった一人の活動をやってて、Maplatという世界唯一のソリューションの開発もほぼたった一人でやっているので、私が動かないと何も進まないそれらの活動をほっぽっておいて、新しい活動のリードを採ることなどできません。
第2に、そもそもCode for History活動を一人でやっていることとも繋がるのですが、私は精神的外傷、トラウマレベルで、「私が呼びかけた活動には、対価などを発生させない限り誰も賛同してくれず動いてくれない」というジンクスを抱えている人間なので、新しく誰も動いてくれそうもない活動のリードを抱え込むことなど、確実に精神を病むのでできません。
ですので、「てめえが動けよ」と言われる限りは「私は絶対に動きません」なのでこの問題提起は「以上、終わり、解散!」なのですが、もし拾ってくれる人がいるならば、双方の活動をしている方々のコミュニティの引き合わせ役など担当しますし、また代わりにリードしてくれる人の元では私の避ける範囲で協力したいと思っています。

また、別の話題なのですが、ビジネスでの「0から1を作る」「1を10にする」「10を維持し続ける」の喩えを使ったので、その中でまだ言及していない「10を維持し続ける」部分についても、論じたいと思います。
大字史で「1を作りました」でも、ウィキペディアタウンで「10まで育てました」でも、それを維持する活動も組み込まなければ、それはいずれ0に戻ります。
たとえばこちらの活動も、

https://code4history.dev/TatebayashiStones/

館林市の50年前に有志により実施された石造物所在調査は、50年の間に酸性雨などで今は読み取れなくなっているような刻銘も50年前に判読した成果なども記されていて非常に有用なのですが、正確な位置も写真もほぼないままに行われた成果なので、調査対象の現在の状況と紐づけられない状況になりかけていました。
それを正確に現在の状況と紐づけようと個人で始めた活動が上記活動なのですが、今はぐんま史料ネット()の助けを得て、なんとかこの50年後の再調査を多分あと数年あれば目途つけられそう、という状況にできました。
まさに、一度とても有用な成果を残したからと言って、メンテナンスしないと無に帰する典型ではないかと思うのですが、このように継続的なメンテナンスを行えるようにするための必要条件として、私は以下の2つが挙げられるのではないかと思っています。

  1. オープンデータにすること - 著作権のあるデータだと、後進が現況に更新しようと思っても、まず著作権処理からしなければならない、ということになります。オープンデータであれば、誰でも志ある人が更新を引き継げます。
  2. オープンなデータ形式であること - オープンでないデータ形式だと、たとえそれがMicrosoft Officeほど普及したデータ形式であっても、いずれはデータとして使えなくなります。いつまでも使い続けられるデータであるためには、オープンなデータ形式で記録される必要があります。
  3. 技術に精通していない人でも更新できる手順であること - これ、2.と時には衝突するのですが、オープンなデータ形式にこだわるあまり、技術的にとんがったギークしか更新できないよ、みたいな手順しかないと、ほぼそのデータセットは死ぬと思ってます。本当に人によるとしかいいようがなく、絶対そうとは言い切れないところもありますが、総じて技術にとんがった連中のこういう活動に対する問題意識ってかなり「底が浅い」ので、技術に長けた人しか更新できないデータセットにするとまず間違いなくダメになるので、相当に簡単な手順を構築する必要があると考えています。なので場合によっては、時代が変わればなくなりそうなGoogle Docsだとか、そういったプロプライエタリな仕組みも活用しつつ、永遠に残すためのオープンデータ形式化は相互変換などでカバーしつつ、臨機応変にやらないといけないと思ってます。

こういった、成果を永遠化するための手順まで考えに入れつつ、0を1、1を10、10を永遠にするまでの活動を一気通貫で面倒みられるような地域史掘り起し活動が必要じゃないかと思っています。

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