Code for History

"Code for History"はIT技術を歴史学上の問題の解決に使うコミュニティです。強調したいのは、我々にとってIT技術は「手段」であって「目的」ではありません。「目的」は歴史学上の問題を解決する事であって、必要であればITでない手段も活用します。常に最優先なのは、問題を解決することです。

Maplatで同時に複数の古地図画像等を表示することに関する考察

先日、大阪市大で行われたMaplatのワークショップが開かれました。 そのワークショップ上で、面白い質問をいただきました。

よく航空写真などを大量に広域撮影することがありますが、そういった航空写真群をGISで扱う際、通常はオルソ補正加工などをして複数の航空写真をひとつのGIS化された大きな広域写真にまとめて、扱うということを行います。 が、そういったオルソ補正なども元画像を歪める処理の一種であると考えると、オルソ補正前の航空写真をMaplat上で扱いつつ、広域を覆ういくつもの航空写真を一斉に同時に表示する、というような事に対応する予定はあるか、という質問でした。

これは面白い問いかけで、まず技術的に考察しますと、Maplatによる古地図画像などの一般地図上への重ね合わせは、一般的なGISと異なり、単独の地図インスタンスの上に複数の地図画像レイヤーを載せているのではなく、背景の一般地図と重ね合わせている古地図等それぞれに、独立した地図インスタンスを生成し、各々を連携させながらも独立して動かす事で実現しています。 つまり、重ね合わせる地図を増やすことは技術的には可能ですが、その地図が増えるたびに、独立制御する地図インスタンスも比例して増えていく事になります。 1つや2つ制御する地図インスタンスが増えたところでそれほど重くはならないでしょうが、何百という数の広域の航空写真群を一斉に制御するようなことをすると、おそらく重すぎて制御できないでしょう。 ということで、まず技術的にも難しい要請になります。

次にMaplatでそれを実現する意味的にも考察してみます。 オルソ補正などで補正して共通座標系の一枚画像に加工した後ならばともかく、補正前の航空写真群は1枚1枚が独立した座標系を持つ地図画像です。 つまりは地図画像の切れ目で座標系が重なり合わない、視点を動かすと各々が独立してウネウネと動く独立座標系をもった画像の集まりであり、一度に表示することにあまり意味があるとは感じられません。 特に、Maplatの場合各々の地図の独立座標系と、経緯度などの正確な座標系がぴったり重なり合うのは現在の視点の中心点においてだけであり、中心点が地図の座標域に入らない、すなわち地図の全域で正確な位置情報と重なる場所がない地図を表示することにあまり意味はありません。 以上の理由より、隣接地図の切り替わりなどは工夫が今後も必要な点かもしれませんが、基本的にMaplatで複数地図を同時に見せることに大きな意味はないと考えています。

Maplat技術は今までになかった古地図の見せ方ができる技術ではありますが、万能の技術ではないです。 バラバラに撮られた航空写真などをまとめて一枚で広域に見るには、やはり既存のGISで処理した地図の方が向いている場合があり、それは全くMaplatは否定しておりません。 注意して欲しいのは、Maplat技術イコールMaplatビューアではない点で、Maplatのビューアは、Maplat技術で作られた地図だけでなく、既存のGIS技術(TMS、WMTS等)で作られた地図も一緒に読み込めます。 Maplat技術で処理するに向いていない地図は既存技術で処理しつつ、それらを重ね合わせるのはMaplatビューアを使う、という形で活用いただければな、と思います。

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