Code for History

"Code for History"はIT技術を歴史学上の問題の解決に使うコミュニティです。強調したいのは、我々にとってIT技術は「手段」であって「目的」ではありません。「目的」は歴史学上の問題を解決する事であって、必要であればITでない手段も活用します。常に最優先なのは、問題を解決することです。

ATR Creative社内で出さなかったメール『事業の前提共有のために』

いろいろメールを整理していたら、ATR Creative内*1にいた際に書きかけたけど出さなかったメールが出てきた。
書きかけなので結局出さなかったんだけど、同社の抱える問題がいろいろ明確になっていると思うので、ブログで公開しておこう。

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真知さん
徹さん

大塚です。
お疲れ様です。

先週の個人向けWebサイトを、投稿地図非公開状態でオープンする方向性の件は、話し合った結論の通り、ユーザからの公開させてくれ熱が高まれば時期をおかずに公開準備するという条件の元で了承しました。
それについては蒸し返すつもりもないのですが、あの手の議論がヒートアップする原因として、例えば事業の状況や目標、前提等が共有されていない事が一つあると思いますので、それを今後共有していく事を提案すると共に、私の立場からどのように見えているかを今回確認させていただきたいと思います。


まず、徹さんが言われている「マネタイズ、マネタイズ」というのが、純粋に黒字化、それも早急な黒字化なのか、それとも「社内政治」という言葉から想像されるような、純粋な黒字化だけでなくその上に別の判断基準/中間目標が存在するものなのか、それが我々の目からは全く判らないのです。
なので、それを知らされていない身からは、単純に一般的な黒字化に至るまでの常識論、経験論しか話す事ができず、それに照らすと徹さんの戦略はほぼ首肯できない事が多いのですが、しかし知らされていない前提条件があるのであれば全然話は違ってきます。
例えば、常識的に考えれば2〜3年後の黒字を最大化するには、戦略Aを採るべきだけれども、たとえ将来の黒字が小さくなっても今年は絶対これだけの売上を確保しなければならない、そのためには戦略Aではなく戦略Bを採らなければならない、でないと事業存続が認めてもらえなくなる、等。
それが共有できれば、ぶつかる事もなくそれに至るためのベストの戦略もみんなで議論する事が出来ます。
共有されていないので、一般論しかいう事ができないのですね。

現状我々の知っている事業の状況というのは、実際がどのように変わっていようと、知らされていないので、今期の始めに「案件30件程取れれば大丈夫」と言われた状況から変わってないのですね。
いやもっと言うなら、入社時に「アプリ公開すればファンドもバーンと入ってくるので大丈夫ですよ」みたいな話をしていた時とも何が変わっているのか判らない(何も知らされてないから、的な意味で)。
もちろん何となく雰囲気からは伝わってきますけど、実像が判らないので、むしろ不安を感じるような事を言われると逆に不安が募って、何故最善手を打たないんだ、と思ってしまうので、議論が感情的になってしまうのですね。
なので、事業の状況、予算から経費から売上、MUST/SHOULD双方の目標とその達成状況まで、きちんと時々の状況を公開してくれれば、もう少し具体的で建設的な議論になるのではないかと思います。
前社でも、部門の予算と売上目標、及びその達成状況は月1〜2回の全体会議で都度共有されていましたし、会社全体でもクオータ毎に共有されていました。


別の視点ですと、議論の際に高橋さん夫婦と我々との立場の違いも考慮いただければと思います。
我々にとっては、事業が続けられる事そのものが第一目的ではなく、それは我々にとっての必要条件でしかなくて、十分条件としては事業が続いて、かつ我々の雇用が維持され、さらに改善されなければ意味がありません。
一切のリスクを踏まないように慎重に慎重に事を運んで、なんとか5年10年と事業を維持できたはいいが、残った初期メンバーは高橋夫妻だけでした、みたいな形だと我々にとっては全く意味がないわけなのです。

もし我々が正社員で、どんなに赤字が続いてもちずぶらり事業が続く限りは雇用が維持されて、或いはちずぶらりがポシャってさえ雇用が維持され、別の事業や研究にチャレンジできる、そして長年勤めていれば自然に給料も上がり地位も向上して幹部になれる、というのであれば、どんな戦略であっても(都度正論は吐くとは思いますが)最終的にはつき合います。
そう言った事が保証されているのであれば、むしろのんびりと長々と事業した方が、我々にとっても利益につながるので受け入れ易いのですが、そういった事が保証されていない、事業の火が続いたとしても収益が成り立たなければ普通に首切られる立場にいる者としては、前提条件の見えないままあえて常道とは異なる戦略を採られると、なぜ?と思ってしまいすごく不安になってしまいます。
正直私にとっては、ちずぶらり事業に携わる上で最大のリスクは私自身の…

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ここで書きかけのメールは途切れていました。
まあ要するに、自分がATR Creative社の中で、何をしても辞めさせられる事はない(辞めさせられるとしても一番最後)とたかを括って特権的な地位にいると自覚している高橋徹にとっては、事業や技術での議論や衝突は、ジョブス並みにセンスのある自分にセンスのない下々が突っかかってきてるだけ、という感じだったんのでしょうが、
そうではなく、彼の下で働いている人間にとっては、「彼の好き勝手」対「自分の生活、人生」の対立だったのです。

彼は私をATRに誘う際、契約社員という部分に躊躇する私に対し、「ATRは組織改革が間に合ってなくて研究員という枠組みしかまだ用意できてないので、研究員という契約社員身分でしか雇えませんが、ちずぶらりは事業としてやろうとしてるので、契約が切れたからといって解雇するつもりはありませんから」とか、「我々も契約社員です。みんな同じリスクを背負ってますから」と言って、呼び寄せました。
また、もともとATR社内で事業するのではなく別会社を立ち上げようという案もあって、それはポシャったのですが、その時彼がエラそうに言っていたのが、「経営者というのはHurt Moneyといって、たとえ少額でも出資しないと、無責任な経営をする」というものでした。

入社してみて何の事はない、「みんな同じリスクを背負ってますから」等というのは大嘘だと言う事が判りました。
会議の際に、「家で打ち合わせした時はそういう話じゃなかっただろ!(契約社員高橋徹、怒号)」「え、ええ、そうだったっけ、どうだったっけ(取締役:高橋真知)」等とやり取りしてる、同じリスクを背負った契約社員等どこにいるでしょう。
深夜に同格の契約社員に、「これ以上逆らうなら解雇するぞ」と脅迫メールを送ってくるような、同じリスクを背負った契約社員等どこにいるでしょう。
それゆえ、「この会社はヤバい。放っておいたら好き勝手やられて事業回らない状態にされた挙げ句、その責任は彼らがとらずに俺らがトカゲのシッポ切りされる」と思ったからこそ、会社運営を正常化しようとして、自分たちの雇用を守ろうとして彼とことごとく衝突したのです。

一貫して思っていたのは、彼との対立は価値観の対立ではなく、彼の既得権益vs社員の将来の不安、による対立だったわけです。
その事を伝えようと上記のようなメールも書こうとしつつ、躊躇している間に、結局赤字体質が親会社に指摘され、思った以上に早く危機が来て、やはり想定通り高橋家は責任を取らずにトカゲのシッポが切られたわけです。
出資してない経営者は無責任、と彼が自分で言ってた言葉を、彼自身が証明したわけです。
一つ前の記事の、「どれだけGISやTMSを否定してきていようが、目の前にTMSの成果が転がってたら彼はそれを自分のものにする」という予言が当たっていたように、やはり「どれだけ過去に同じリスクを背負っている、出資していない経営者は無責任と発言していようが、彼は自分が責任を取るべき立場にきたらひょいと逃げる」という予言も、やはり当たっていました。

*1:正確には当時はATR-Promotionsだけどもいちいち正確を期しても意味ないので

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